日本の広告業界における著作権意識の一端

株式会社アートバンク代表
来田 淳


日本の写真エージェンシーがイラストレーションを扱うようになって十年余が経過しました。

写真エージェンシーのシステムは、一回、一用途毎の使用契約になっており、イラストレーターは、写真エージェンシーと作品の委託契約を結ぶことによって、作品本来の、商品としての価値に見合った報酬を得られるようになり、作品に対する発注者側の(事前契約のない)「買い取り」意識も徐々に改善されてきました。

また、有名無名を問わず、作品そのものが社会に評価されるため、私達が発行するカタログが契機となって第一線で活躍するようになった方も沢山おられます。 しかしいいことばかりではありません。

スターが出ればモドキが出るのは世の常というもの。写真エージェンシーが広告・出版業界に配布したカタログが参考資料となって、ある日不気味な社会現象が現れ始めました。カタログに掲載された作品のクローンから始まってキメラ、ハイブリッドコピー、果てはコピーのコピー即ち孫コピーまで、得体の知れないモノ達が巷を徘徊し始めたのです。

初めのうちは笑っていたものの、やがてそうもしていられなくなってきました。

もともといい加減であった日本人の著作権意識。それを私達写真エージェンシーが炙り出してしまったのです。これを放っておけば、私達が世の中を悪くすることになります。ここで途中ながら一言誤解のないようにつけ加えておかなければなりません。私は決して、広告・出版業界に携わる大半の方々がいい加減だと言っているのではありません。

少なくとも当社が永年お取り引き頂いているお客様のほとんどは、事業規模の大小にかかわらず、確かな著作権意識とプライドを持っておられます。

他媒体への二次使用などの作品の流用に際しても、事前にきっちりと処理されています。ところが、こうした姿勢で仕事をなさる方々が、アンフェアなやり方でなければ出せないような見積もりを行う人々に仕事を持っていかれることが多々あるのです。

正直者が馬鹿を見るような世の中は何とかしなければなりません。

私自身も絵を描く人間の一人として、もう一日も早くこの汚穢のような気分から抜け出さなければ体に悪いと悟りました。

私達の抗議に対し、非を認め姿勢を正す人がいる反面、居直る人もいます。「盗作という言葉は法律用語になく、意味不明」と配達証明を送りつけてきた弁護士。「当社への電話は営業妨害とみなして記録する」と答えた企業。「仕事がなくなりますよ」と脅した広告代理店・・・・・。

もういいでしょう。彼等との議論は尽きました。

ショータイムだ。

(1998年7月7日)



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