増え続ける、道徳観なきデザインの現場 後藤樹史
最近、著作権の分野でも忌わしい事件が後を断たず、無断使用、不 正申告、盗作などの犯罪行為が、公然と野放しにされている。あまりに道徳観のなさに、怒りを通り越して言葉すら出ない毎日だ。
自分のブログのアクセスを増やしたいばかりに、他人の著作物を平気で盗む連中さえいる。
非常な憤りとやるせなさを感じる毎日であるが、我々イラストレー ターの著作権というものが、貴金属や土地、建物といった“モ ノ”ではなく、無体財産だけに、安易に考えられていることが非常に歯がゆい。
しかし、それにも増して、憂慮すべきなのは、広告、印刷業務に携わる企業やスタッフのモラルの無さという点であろうか。フォトエージェンシーのカタログやそこらの印刷物、あるいはネットから画像を無断で取り、これを改変や合成したりして商業紙・誌・HPに掲載し、印刷物などに公然と使い続けている事実を見てもそれはわかる。
私の場合、作家としてイラストのみならず、文章による創作も作品としてサイトで発表しているが、自分の文章がそっくりそのまま、他のサイトのコンテンツになっているのを発見して愕然としたことがある。
苦労して創作したイラストや文章をそっくりペーストもしくはコピーしたのを発見すると、身体中から力が消え失せてしばらくは創作する気力もなくしてしまうものだ。盗んだ立場の人間には決してこの気持ちはわかるはずがない。これらの悪質なブログやサイトの運営者は、著作権で食べている我々からすれば生活を根底から脅かすとんでもない無法者なのである。 法人の場合、いやしくも趣味サイトなどではないのだから、ほんの出来心だの知らなかっただのは言い訳にはならない。ましてや発見されたら普通の使用料を払って済ませようとするのは厚かましさ以外の何物でもない。 一つの作品を完成させるには、はかり知れない努力と時間が必要である。技術的なこともさることながら、一つのイメージを考案し、何度も洗い直しをしたうえで完成にまで持っていくには、かなりの根気と忍耐力も必要なのである。つまり、幾つかのインスピレーションが形となり、一つの作品として実を結ぶまでには、何段階もの試行錯誤を経なければならない。なかでも立体イラストを制作する場合などは、通常の作品の何倍もの時間が必要なのである。
そして最終段階では「スタジオ撮影」というコストもかかってくる。 こうした目に見えない努力を理解せず、平気で不正行為を繰り返す人間が一向に減らないという現実には、腹の底から怒りがこみ上げて来る。
知的財産権に対する意識が低く、また勉強しようという気もなく、利潤のためには、どんな手段を使っても構わないという考え方の人々には、断固制裁措置を取る以外にいかなる方法もないように思う。 また、私の立体イラストをそっくりトレースして、何万枚もチラシとして配布し続けた会社があった。その会社は、自らの不正行為を指摘されると、「辞めた社員がトレースの練習にしていた作品が引出しにあったので使った」などという信じられないこと悪びれもせずに言って来たのである。さらに、正規で借りればこれぐらいだから、その程度の料金を払うことでいいでしょうと平然と言い返して来る。 「発見されれば通常料金を支払い、発見されなければしめたもの」 という考え方は、まさに犯罪者の心理に他ならない。
悪質な企業だけでなく、そういう企業に、ヒルのように吸い付いている悪徳顧問弁護士なども、同列と見なければならない。彼らは、不正使用した企業に、未解明部分の報告を拒ませたり(故意の隠匿、虚偽報告)、著作権法の都合のいい部分だけを誇張し、時には曲解して入れ知恵をしたりする。
一方、入れ知恵を受けた会社は自己保身にのみ終始し、だんまりを続け、時には居直ってきたりするのである。そこには、罪の意識も反省の色もまったくないといっても良い。 過去に、あるデザイン会社が、明らかな盗作行為を繰り返していたにもかかわらず、話し合いの途中で、何を血迷ったのか、いきなり訴状(遠隔地から債務不存在の訴えを提起)を当方に送りつけて来たケースがあった。
その訴状には、相手方の弁護士の名前が20名ほど書き連ねられ、厳めしく印鑑が方々に押されていた。法律に疎い我々が見れば、脅威を感じるような文面である。そこには、権威というものを傘に着て、弱者である我々イラストレーターを押しつぶそうとする彼らの傲慢さが見えていた。 結局、その会社は裁判の過程で、私のエージェンシー(アートバンク)の徹底調査によって、他の作家の盗作をしていた事実も暴き出され、裁判の管轄を、自分が申し立てた大阪地裁から東京地裁に移管させられ、二進も三進もいかなくなった末、平身低頭して通常時の使用料の十倍を超える額の和解案を出さざるを得なくなったのだった。しかも最終的には、裁判官立ち合いの下に、「もしまた不正使用が出てきたら、こんどは使用料の20倍額を払う」という念書まで書くことになった。 このような例は枚挙に暇がない。被害を受けた我々イラストレーターが発見出来る不正行為は、全体の被害のごく一部に過ぎないのが現状だからである。
最近、発見された企業サイトに使用されていた私の立体イラストも、ことごとく無断使用であったことも付け加えておく。 最後に、出版界、広告界に携わる方々にもプロとして、先ず利潤を考える前に、クリエイティブな仕事に相応の対価を払い、かつ法律を順守するという最低限のモラルを堅持して頂きたいと切に願う。
また、広告主企業には、良識ある経営理念に立ってコンプライアンスを重視し、著作権侵害などという破廉恥なトラブルを未然に防ぐための意識改革と、制作管理システムを築いて頂きたいと思う。
著作権の侵害が野放しにされている現状に対して、危機感を感じると同時に、何らかの防衛措置を取る必要に迫られていることを痛感して止まないのは、私一人ではないはずだ。後藤樹史(ごとうたつし)
立教大学経済学部を卒業後、デザイン学校でイラストレーションを学び、いきなりフリーで活動を開始。プロ歴約25年。アート系美術系の公募展を中心に出品し入選
受賞歴30回以上。「得意なジャンルは、ファミリー的タッチを生かした立体作品。多くの人々の中に自分がいて、心が通じ合っているような暖かいテーマを創造していければと考えています。」
後藤樹史公式ホームページ
http://fenixbird.web.fc2.com
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