クリエイターとしてのプライドについて カワキタ カズヒロ
私の職業はイラストレーターである。
依頼主から受注した絵を描き、その使用料としての報酬を受け取る。
決して絵を売って生活している訳では無い。
絵の使用料、すなわち版権を売って生活しているのである。その辺が一般的に言われる絵描きとは違う。印刷が済めば絵は私の元へ戻ってきて、依頼主はそれ以外で使うことはできない。もし、新たな媒体に同じ絵を使うとなれば新たな使用料が発生する。
まあ、こういったことがイラストレーターの仕事で、日々細々と暮らしている。
でも、近頃は絵を描く以外で頭を悩ませることが増えつつある。
著作権にまつわるトラブルだ。時おり友人や知人のデザイン関係者から、身に覚えのない私の仕事を見たとか、よく似たものがあるとかいう連絡が入る。
ポスターだったり、チラシだったり、新聞広告だったり、看板だったりする。実物を持ってきもらったり、 写真を撮ってきてもらったりするんだが、これがそっくりそのまま描き写したものから、キャラクターはそのままで絵柄を巧妙に変えたものまである。 左右を入れ替えたり、一人を二人にしたり、服装や持ち物の一部や材質や色を変えたり ・・・。
よくまあ、こちらが何年もかけて創りあげてきた絵のスタイルやキャラクターを簡単に使ってくれるものだ。何しろ、こちらも生活がかかっている、怒りを通り越して悲しくなる。
それを見た仕事仲間からは「下手になったなぁ。」とか「手を抜いた?」などと言われる始末だ。確かに絵柄は変えていても元絵が分かるようなものなので、私の絵だと言われても仕方が無い。
「描くならもうちょっと上手く描いてくれ!」半ばやけくそに叫びたい気分になる。
ひどいものになると、それがどこかのコンペで賞を取っていたというから恐れ入る。
友人に「見たよ。おめでとう。」と電話で言われても、「なにが、めでたいねん!」気分が滅入るだけだ。「すべての芸術は模倣から始まる。」と言われる。模写や模倣はものを創る人だったら必ず通ってきた道だ。
私もいろんな作品からインスピレーションを受けて創っているのは事実だし、同じ人間である以上、考えることにそれほど大きな違いは無い。だから、自然に類似するものが出来るのも異論は無い。
それにパロディなどという分野もある。
ただ、創り手の多くは模倣から試行錯誤して自分のオリジナリティを確立していこうと努力している。
手っ取り早く他人の努力の上澄みだけを取って、利を得ようするのとは明らかに違う。
そうでないと地道な努力なんて価値が無くなってしまう。
今の世の中を騒がせている建築耐震問題、株に附随する事件など、すべての根は同じようなところにあるのでは無いかと思う。カワキタ カズヒロ
イラストレーター、漫画家。仕事は広告や雑誌、子供向けの本、TV関係など多岐にわたり、コンクール展や個展などでも作品を発表している。主な受賞歴に現代版画コンクール展「大賞」、第10回・第22回読売国際漫画大賞展「大賞」などがある。
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